こころの紋様 -ミニ説教-

~海に命をかける人々の知恵~

- 縁起かつぎの効能 -



 海水浴やキャンプで賑わった玄海さつき海岸から秋風と共にもう人影が消えてしまいました。

何もなかったように打ち寄せる波の音だけが、いつまでもシャバ、シャバと不定期なリズムを奏でて

やみません。秋の海は妙に淋しさをもようさせるのは感傷の秋だからでしょうか。

 いつも承福寺から眺める玄界灘の風光は日ごとに変わります。今は何事もなかったようなこの海が、

十数年前の立春の前日、節分の日に大荒れに荒れて地元のフグ漁船二艘が遭難し、4人が帰らぬ

人となった悲しい海難事故がありました。境内から毎日のように見る眼下の海、そしてかつては

我がジョギングコースとしていた浜辺の出来事だけに驚き信じられない思いでした。

 九死に一生を得た漁師の証言では、波が突然切り

裂けてワッと立ち上がり縦になって襲ってきたと言う

ことでした。昔より玄界の荒海とは言われてはいま

したが、いったん海がシケると狂ったように牙をむき、

その豹変ぶりは長年漁にたずさわったベテラン

漁師の予測をはるかに超えたすごさだったのです。

 数十日の海上捜索にもかかわらず、行方不明者は見つからぬまま捜索は打ち切られました。

だが諦めつかず父や兄、息子を探して海岸を歩く家族たちの悲壮な姿に出会い何とか形見なりとも

家族のもとに返してやりたいものだと祈りに似た思いでその日からの私のジョギングは遺体捜査を

兼ねたものとなりました。何処の漁師にも通じることかも知れませんが、私の知る鐘崎の漁方は

すごく縁起をかつぐと聞いています。正月中に隣に死者が出ても親類以外はお悔みにもいかない

とか、手みやげに梨を持参すると漁の無しに通じるから嫌われるから、かき込む意味で柿をもって

いけば喜ばれるなどの話を聞きました。なんだ、ナシは事故なしにも通じて結構じゃないか、

つまらぬ語呂合わせや、迷信じみたことに捉われたり縁起をかつぐなんて、何と海の男らし

からぬことだと思ったことがありました。

 しかし、その後漁師さんたちとの交わりの中から、

それは本当の海の怖さ、大自然の威力の現実を

知らない私の偏見でした。船の板子一枚に生死を

託す漁師は海の本当の怖さを身をもって感じる

ほかに、先祖より受け継いだ血にしみて知り、

自然への畏敬、目に見えぬ不思議な力に過敏で

あり敬虔なのです。

 そして海の荒れくれ男のイメージとはうらはらに、素朴な信仰ながら神仏への祀りごとを大事にし、

極端なぐらいに縁起をかつぎ、時には迷信じみて臆病でさえあるのです。実は彼らこそ海の怖さを、

大自然の威力を知る人たちであり、縁起をかつぎ迷信じみた慣習の中に自他の命を守ろうとする

慎重さが教えとしてあり、それはまた海上の安全を願い、間違いを起こさぬための先人からの知恵

なのだと思い直しました。そんな思いの中、遭難の漁師たちの遺体が次々に発見され、最後の方を

お彼岸の入りの朝、私のジョギングの折に見つけてやれました。お彼岸に和尚さんに見つけて

もらって、これも仏のお引き合わせだとご遺族からえらく感謝されて、気まぐれのジョギングが

こんな形で役立ちホッとした昔のことを思いだしたことでした。




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