こころの紋様 -ミニ説教-

~〝愛〟より苦は生ず~

- 人間社会に必要な愛とは -



 〝かさこそと寒夜にも枯葉の歩み行く〟

お檀家の招きに応じて法談(放談)がはずみ、ご馳走につられて、ついつい長居してしまい帰山が

遅くなりました。夜寒の月明かりの中、砂利庭に一枚の柿枯れ葉がかすかな夜風にあおられて、

そそと歩みだしました。それはつゆ霜の降らぬ間にみずからの落ち着き場所を探して歩むかのような

戸惑いながらの動きです。ただ吹き寄せられるという受動的でなく能動的に自らの意思をもっての

動きのような、歩いては止まり、また歩む。枝木から引き離されても、その命をとどめてやがて定め

られた時と所で土に帰して滅していくのでしょうか。何想う心もない木の葉の一枚にも一葉の生涯が

あるのかもしれない。ましては人間においてなおのこと、一人の生涯はまた一人だけが味う苦楽の

人生があるはずです。
 久保栄子さん(仮名・28歳)は一年前に離婚しました。

 東北出身で東京に学び、東京で結婚しました。

 熱烈な恋愛の末の結婚で大勢の人々の祝福を受け

ました。ところが夫の転勤で福岡に住むようになりました。

 しかし、新婚の甘く楽しい日々は長く続かず、やがて

その熱も冷めてしまいました。 恋は盲目とは言い

ますが、恋愛中にも彼との人生観の相違に気付き、

また情操的観点の違いなども知りながら、恋愛感情は彼女の冷静さを失わせ、結婚という願望と年齢的

焦りもあっての結婚だったとも聞きました。その結婚願望の熱がさめると、はっきりとした人生観の違いが

生じ、さらに夫のあらが見え出し、欠点がいちいち気になり、それがたまらなく鼻につきだし、夫婦生活を

続けることさえ耐えられなくなってしまっての離婚でした。

 ひと昔の結婚披露宴でよく聞かれた歌の一つに小柳ルミ子のヒット曲「瀬戸の花嫁」があります。

この歌詞の中に「愛があるから大丈夫なの・・」という一節があります。このほかに愛をテーマにした

歌はたくさんあります。愛とはなんと耳ざわりよく、美しく魅力的ことばに違いありません。

 愛のない恋なんて成り立たないし、愛のない結婚なんて無味乾燥な気がします。だがはたして歌の

文句のように「愛があるから大丈夫」なのでしょうか。愛によって結ばれたはずの二人が新婚間も

ないのにいとも簡単に別れている場合が実に多いのには驚かされます。どうも「愛」があっても

大丈夫ではないようです。

 それもそのはずです。実は仏教でいう「愛」とは「むさぼり、

それに執着すること」であたかものどの渇きにあえぐ者が、

水を欲しがるように欲望の満足を求める心情を意味します。

 愛とは決して美しく魅力的な言葉ではないのです。

愛執、愛着、愛欲、愛縛,溺愛などの煩悩であり、迷いその

ものでもあるのです。法句経という古い経典に「愛より愁いは

生じ、愛より怖れが生じる。愛を超えた人は愁いなし」とあり

ますが、愛するが故に苦しむのは愛は苦であるからなのです。

 とはいえ愛のない人間社会なんて味気なく潤いのない気がします。やはり人間社会に必要な愛も

ほしいものです、それは執着、煩悩の愛でなく、この人間愛を超えた清く浄らかな自然愛として発揮

される慈しみ、憐みの心です。この人間の意識を超越した大きな愛、菩薩の心、仏の心を養い身に

着けるべく、日々精進したいものです。この精進努力こそ信仰の道に通じるのだと言えます。



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