こころの紋様 -ミニ説教-


〜 仏教とは何か? 〜

―悪をなすなかれ―



 ある年の本山参りの折の市内観光をしたあるご婦人のはなしです。その観光寺院では拝観料の

代わりに写経をさせて「お志」としての五百円の奉納ということが行われていたということでした。

単なる見学でなく多少なりとも仏教の教えに触れていただこうというものなのでしょうか。しかし、その

写経と言うものは「諸悪莫作 衆善奉行」と言う文句が小さな用紙にあらかじめ印刷されていて、それを

ボールペンでなぞるだけだと言うもので、まったく写経したと言う気分ではなかったということでした。

  観光客にいちいち本式の写経など無理なことでしょうから、仕方ない面も

ありましょうから、他人がとやかく言うことはありませんが、単なる見学ではなく、

仏教の教えの一端でも触れていただきたいというのであれば結構なことだと

思いました。この「諸悪莫作 衆善奉行」と言うのは七仏通戒の偈というお経の

中の一節です。七仏通戒と言うのは、過去七仏と言い、お釈迦様がこの世に

ご出現される以前出られた仏たちのことで、毘婆尸(びばしぶつ)・尸棄仏

〔しきぶつ〕・毘舎浮仏(びしゃふぶつ)・拘留孫仏(くるそんぶつ)・拘那含牟尼仏

(くながむにぶつ)
・迦葉仏(かしょうぶつ)、そして釈迦牟仏を含めての七仏を言い、

この七仏が共通して受持したと言われる戒めの偈 (偈=仏教教義や禅の境地などを四句の詩にしたもの) です。

これは現代もなお仏教徒共通の戒めとしていかされなければならない教えです。それは、

     諸悪莫作 (諸々の悪をなすなかれ )

     衆善奉行 (<おおくの>善を奉行せよ)

     自浄其意 (自<みずから>其の意<こころ>を浄くせよ)

     是諸仏教 (これ諸仏の教えなり)
   の四句です。

 一般に仏教とは何かと言った時、なんだか難しいものと

言う思いを抱かれています。しかし仏教とはこの七仏通戒の

偈の如く、悪いことをしない(諸悪莫作)、よい行いをする

(衆善奉行)、そして心を清くする(自浄其意)、と言うだけの

ことで、仏の教えとはいたって簡単なことなのです。

 昔の中国の詩人で有名な白楽天がまだ若き時、道を求め、刑州の山中に鳥?禅師と呼ばれ、樹の上で

仙人のような生活をしている道林和尚の噂を聞いて訪ねました。和尚に対し白楽天は「仏教の根本、一番

肝心のこととは何か?」を訊ねました。道林和尚は即座に「諸悪莫作 衆善奉行」即ち、「善い事をしなさい、

悪いことをするな」と答えたのです。道林和尚といえば禅の師として天下に名が通っていて、さぞ立派な

答えが返ってくると思っていたのに、あまりにも平凡で幼稚な答えに呆れた白楽天は「そんなことぐらいは

三歳の童子でも分かっていることです。馬鹿にしないでくれ!」と反論したところ「三歳童子でも知っている

ことだろうが、八十の老人でさえ行うことは難しいものだよ」と平然として応えた道林和尚の真意を知った

白楽天は、すっかり参ってしまい、道林和尚のもとで修行したと言います。悪い行いをせずよきことを行い

心浄らかにして、真理の世界に到るところに仏教の教えがあるのだと教えられます。




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