こころの紋様 -ミニ説教-


〜 災害は忘れなくてもやってくる 〜

―災害対策と心の備え―




 昨年から相次ぐ台風、地震と津波など自然災害の脅威は今年も引き続き、どこで災害があっても

おかしくないとは思っていたが、なんと何と、今回はわが身が、その災害のお見舞いの言葉をうけよう

とはおもいもよらぬことでした。去る三月二十日午前十時五十三分に突然襲った福岡西方沖地震です。

その時間帯は当寺ではお彼岸のお中日の法要とお説教会を営む直前のことであり、本堂内には二百

名ほど老若男女が座して開式を待っていました。ゆれる直前のゴーッと言う奇妙な音に続いての大きな

振動がしばし続くが、あれあれ、今までになく大きいぞと云う認識で、様子を見守る状態であったが、

あわてて立ち上がるものはいなく、よくパニックにならずに済んだと胸を撫で下ろしたことでした。


地震の亀裂
 本堂内と云う広い空間で落下物が何もないという中であったことと、みな

信心で集う人たちの中でしかも、仏前に座して心落ち着かせている状態で

あったことが幸いしたのかもしれません。しかも幸いなことはこの寺は固い

地盤に建てられていることで、まったくと云っていいほど被害はありません

でした。地震の揺れが収まるとみな一斉に携帯電話を取りを出して自宅なり、

家族の下に連絡を取り被害や安否の確認をはじめました。一昔前には考え

られない情景にまさに携帯社会だなぁという思いと、こんなでは電話回線の

パンクは大丈夫かなおもいましたが、どうやら通じたのか、回りの人たちの

落ち着きぶりから判断してか安心したように一人も帰る者もいません。

時間を遅らせることなく、予定通り法要とお説教をつとめて、お斎きを頂いて、三々五々に帰っていかれ

ました。家族連れなどは何事もなかったように門前の田んぼの土手へ下りて土筆つみをしていかれる

など、先ほどの地震を忘れるような普段ののどかの情景が見られて、私も今までの興奮から解放された

ものでした。私は法要の後片付けや参拝者の対応に追われてゆっくりTVを見る間がなかったのです。

 しかし、その間も次々に電話は入り「おかげ様で、何事もなくて助かりました。有難うございます。

また私の関係者する人たちも棚の物が落ちたり、古る壁がはがれたりの被害は多少あったみたいですが、

ご心配頂く様な災害はありませんでしたので、どうぞご安心ください」と云う

返事を繰り返すことしばしでした。参拝者が引き上げ片づけを終えてあらためて

TVの地震情報やニュース見て、なるほど遠方の人たちが心配の電話をなぜ

下さったのがよく理解出来、納得した次第でした。TVは激震地の玄界島の倒壊

家屋や福岡市中心部のガラス破損落下した福ビルなどの目立つ災害現場を

集中的に映し出し、しかもそれを繰り返し、繰り返し興奮した声でつたえるため、

TVの視聴者は震度の数値を示した地域全体が、あの状態ではないかと云う

思い込みにさせられるからです。

地震被害の玄界島民家

 TV報道は映像として画になるような被害現場や状態しか映してくれません。小さな災害は無視されて

しまうのは仕方ないのかも知れないのですが、情報機関としてはいささか不備であり誤解を与えて

しまっているというのが、震災現場を知るものとしての感想です。連日、目にする激震被害の玄界島だけが

被災地ではなくて、規模こそ小さくても私が翌日訪ねた福岡市西区や西隣の糸島地区の民家の屋根は

大きく破損した状態で多くの家々がブルーシートで覆われていたことなど伝えていません。


地震被害の玄界島民家
 また、当然かもしれないが、ガラス破損の福ビルの崩落現場は幾度も映像で

映し出しても、無傷で営業を続ける隣のビルや向かいのビルも、すぐ傍の県の

公共施設アクロスのビルも何事もなくイベントをやり営業をしている様子は見せ

てはくれません。だから、視聴者はあの被害状態から市内全体が多かれ少な

かれその福ビルに近い状態ではないかという錯覚をしてしまうことになったの

です。殊に、福岡の地理を知らない人にとっては、玄界灘に浮かぶ玄界島と

玄界灘に面する私の住する玄海町(現在は宗像市)と混同して、「寺は大丈夫

だったか?」と云うお気遣いの電話を幾人からも頂き苦笑ってしまう有様でした。

 情報の流し方、受け止め方には状況を十分注意していかないと風評やデマなども生まれかねず、とんだこと

になりかねないものだと思いました。もちろん、災害は軽く見るより重く受け止めるほうがより安全であるかも

しれないが、危機を煽るような偏った報道には再考を求めたい。それは、私が阪神淡路の震災でも現地に

飛んでみて感じたことでもある。


最後までお読み頂いてありがとう御座います。

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